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遺伝資源の取り扱いについて(ABS指針)

 

ABS(Access to genetic resources and Benefit-Sharing,ABS)について

海外で生物サンプル等を取得し研究活動に利用する場合には、生物多様性条約と名古屋議定書に基づくABSの手続きが必要となります。ABSの手続きを行わずに海外の遺伝資源を持ち帰った場合、提供国の法令に抵触し逮捕されたり、研究が差し止められるなどの問題が生じ、研究者個人のみならず、日本の研究者全体の問題に発展する可能性があります。

生物多様性条約(Convention on Biological Diversity (CBD) )

生物の多様性の保全を目指す国際条約で、以下の3点を目的として掲げています。

  1. 生物多様性の保全
  2. 生物多様性の持続可能な利用
  3. 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分

条約の中ではさらに「各国の遺伝資源はその国が権利を持ち、その利用(Access)には政府の許可が必要であること」が定められており、目的3.の「利益の公正かつ衡平な配分(Benefit-Sharing)」と合わせてABSと呼ばれています。この目的3.のABSの実効性を高めるために決められた国際的なルールが「名古屋議定書」です。

名古屋議定書

生物多様性条約の目的である「遺伝資源の取得の機会、およびその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)」 の実効性を高めるために決められた国際的なルールが「名古屋議定書」です。 →提供国法令を破り訴えられた場合や、ABSに関する手続きを踏んでいない場合など、もしも国内措置の不遵守に該当すれば、利用者に何らかの処置が課されるようになります。 名古屋議定書を守って、外国の遺伝資源を研究に使用するためには、

  1. 提供国法令の遵守
  2. ABSに関する手続き

が必要となります。

遺伝資源とは(CBD条約第2条)

生物多様性条約で、遺伝資源は「遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物、その他に由来する素材のうち、現実の、又は潜在的な価値を持つもの」と定義されています。

【ABSの対象になる】

  • 動物、植物、微生物(ウイルスを含む)の個体やその一部(生死に関わらず、凍結や乾燥したサンプルも含みます。)
  • 遺伝資源の利用についての伝統的知識(薬草の効果など)

【ABSの対象にならない】

  • 遺伝子配列情報(配列情報をABSの対象とすると定めた国内法を持つ国もあります)
  • 人工合成されたDNA/RNA
  • 公海の海洋生物
  • ヒト(人類)の遺伝資源 (注1:腸内細菌や寄生性?感染性の生物などはABSの対象となります。) (注2:中国は国内法でヒトもABSの対象としています。)
  • 生物多様性条約の非締結国の遺伝資源(注:これらの国にも遺伝資源を保護する法令がありますので対応は必要です。)
  • 生物多様性条約発効(1993年12月29日)以前に入手した遺伝資源

こんな場合は、注意が必要です!

手続きせずに遺伝資源を持ち帰った場合

ABSの手続きを行わずに海外の遺伝資源を研究に使用すると、最悪の場合、次のような問題が起こる可能性があります。

  • 提供国の法規に触れ、逮捕される。
  • 研究差し止められる。
  • 研究費の申請が受理されなくなる。
  • 投稿論文が審査で承認されなくなる。
  • 提供国での遺伝資源の採取ができなくなる。
  • 特許の出願ができなくなる。

など、研究者個人としても、日本国としても大きなリスクを生じる可能性があります。

ABSに関する手続きの進め方

遺伝資源の採取や取得を行う場合は、生物多様性条約と名古屋議定書のルールを守ってABSに関する手続きが必要です。 ①遺伝資源提供国の共同研究者(カウンターパート)を求め、共同研究を行います。 この際、共同研究者が所属する研究機関と、自身が所属する研究機関との間で共同研究契約書(*1)を取り交わします。共同研究契約書の中には、研究によって生じる利益の配分を含めたABSに関しての相互合意条件(MAT*2)を取り決めて記載します。 ②提供国の法令に従って手続きを行い、提供国政府から遺伝資源取得についての事前同意(PIC*3)を取得します。(PICを要求しない国では不要) ③材料移転合意書(MTA*4)を締結の上で、提供国での遺伝資源採取や日本への持ち出しを行います。 (生物多様性条約の基本的理念)

  • 遺伝資源は各国が権利を持つ財産である
  • 利用にはその国の許可が必要である
  • 利益が生じた場合は、両国で公正に配分する

④提供国の研究者ビザを取得したうえで提供国に入国し、サンプルを取得します。その際、国によっては警察や政府の関係省庁での手続きが必要になる場合があります。また、日本への持ち込みの際も「植物防疫法」、「家畜伝染病予防法」、「感染症法」などの法令が関係します。これらの手続きに不備があると、せっかく入手した遺伝資源を廃棄する事態になりかねませんので注意が必要です。 ■以下は、日本政府の国内指針に対応する場合(=国際遵守証明書が発行された場合)に必要な対応です。(※⑤、⑥は提供国政府等が行う手続きです。) ⑤遺伝資源提供国政府がPICやMAT等、ABSに関する手続きの内容をABSクリアリングハウス(ABSCH*5)に報告します。 ⑥国際遵守証明書(IRCC*6)が発行され、ABSCHに掲載されます。 ⑦遺伝資源取得者はABS指針に則り、環境省(日本政府の担当部局)に、遺伝資源の適法取得を報告します。 ⑧5年後、環境省からのモニタリング(報告書の提出)に対応します。

*1 研究契約書:MoU/MoA(Memorandom of Understanding/Agreement),CRA(Collaborative Research Agreement)など、共同研究の内容や規模で適切なものを選択してください。 *2 MAT:Mutually Agreed Terms *3 PIC:Prior Informed Consent *4 MTA:Material Transfer Agreement(注意:*1MTAとよく似ていますが別の書類です。ご注意ください) *5 ABSCH:The ABS Clearing-House、ネット上に置かれた、「国際情報交換センター」(日本の国際指針では、「国際クリアリングハウス」とされています。) *6 IRCC:Internationally Recognized Certificate of Compliance